前回は、夫をあきらめさせるために私立幼稚園の説明会に家族でやってきた私たち。ところが、見学するうちに自分がこの幼稚園に入れたくなってしまって…でも、そうは問屋が卸さなかったのです。
幼稚園に直接相談してみる
見学会も和やかに終わり、あとは個別で質問を受け付けますとなったとき、私は「この子は自閉症スペクトラムの診断を受けていますが、入園することはできますか?」と園長に尋ねました。そのとき、にこやかだった園長の顔色がサッと曇った気がしました。そして、家族で別室に通され、何人かの職員に囲まれました。
園長の話では、この園では実際に発達障害の子供を受け入れているようです。しかし、発達障害の子どもが三人はいって加配の先生(障害児を見てくれるフリーの先生)一人分の予算が付くというお金の話をされました。
そして、後日もう一度この園に来てもらって、詳細な面接をしてから加配などを考えますと言われ、その日は帰ってきました。私の目論見とは正反対で夫はもう入園させる気満々ですし、私は私で、この園ならお勉強つめこみ園でもないし、遊びながら無理なくみんなとやっていけるのではないか?などとお花畑になってしまっていました。もう一度面接をしてくれるというのだから、向こうも前向きにとらえてくれているはずです。
突然の電話
面接はまだかなあと待っていた、その幼稚園見学会から二週間ほど経ったある日のこと、私の携帯に一本の電話が入りました。あの幼稚園からです。その電話の内容とは
職員会議の結果、あなたのお子さんは入園できないことに決まりましたのでよろしくお願いします。
え?もう一回面接をして決めてくれるっていう話でしたよね?どういうこと?
…そのとき、ハッと気が付きました。もう一回面接をするからというのは、私たちに穏便に帰ってほしいための方便だったのです。最初から入れる気なんてなかったんです。でも、こんな電話一本で断るなんて納得できません。私は食い下がりました。面接するのではなかったのか?約束が違うではないか。幼稚園の事務員の方と押し問答になりました。どうしてもあきらめられなかった私は最後のほうには涙声になってしまいました。すると、幼稚園の方が面倒になったのか本音をたたきつけられました。
あなたの家のような子に入園されたら経費に見合わないんですよ!あきらめてください!
このひとことに打ちのめされ、私は電話を泣きながら切りました。
経費に見合わない…経費に見合わない…
この言葉が頭の中をグルグル回っていました。
一般社会の誰からも必要とされない我が子
私立保育園でも邪魔者扱いだった長男は、やっぱりここでも邪魔者でした。そうですよね、二歳半をすぎてまだ言葉も出ていませんでしたし、返事や指差しすらできません。療育に行ったほうがいいに決まっているんです。普通の幼稚園に行きたいという夢を見てしまった私が悪かったのです。もともとは、息子の障害を認めない夫に現実をわからせるために幼稚園見学に行ったはずなんですから。
頭でわかっていはいたことなのに、現実を見せつけられると本当にショックで…
この世には私たちを必要とする人なんていないの?この子は迷惑な存在なの?産まれてきちゃいけなかったの?
産まれたばかりの妹と、いまだ言葉もない感情もない二歳半の長男を抱きしめながら、私は部屋の隅で子どものように大声でいつまでも泣き続けました。
まだ残暑の厳しい9月の終わりの夕方のことでした。
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