母親なら誰だって我が子がかわいいものですよね。世間一般の常識ではそうです。世間では、母性というものは生まれつき母親に備わっていて、子どもを産んだと同時に聖母になれるとされています。しかし、朝から晩まで我が子の起こすトラブルで寝ることもできず、脱走、夜泣き、かんしゃく、嘔吐、排せつの失敗などに振り回され、疲労困憊のなかワンオペ育児で頑張っているけど、意思の疎通さえできない。そんな場合はどうでしょうか?
我が子がかわいくない
それでも我が子をかわいがれる人は多いかもしれません。ただし私は違いました。
こんなに苦労して寝ずに育児しているのに、自閉症スペクトラムのせいとはいえ、三歳の長男は愛情を返してくれない。なついてくれない。いつも私の大事なもの(ゲーム、ノートパソコン、本等)をすべて破壊されて、せっかくの新築の家もめちゃくちゃに汚されて、さらには長男の障害のせいで、あんなに仲良くてうまくいっていた夫ともケンカばかりでうまくいかなくなったし、近所の人にも避けられてる。この状況でどうやって愛したらいいの?
自閉症スペクトラムの子は「視覚優位」といって、耳で聴いて理解する能力が低いことが多いです。長男もかなりの視覚優位で、8歳になった今でも聴覚で理解する能力は4歳程度しかないのです。そんなことを知らない私は、一生懸命ていねいに話しかけたりして余計長男を混乱させていました。
ある日の療育センター長の言葉
私の通っていた療育センターは、年度の切り替わりのときにちゃんと修了式があります。おそらく、普通の幼保に行ったときにパニックを起こさないようにでしょう。初めてのことにパニック状態になってしまう子が非常に多いので、幼保と同じような行事を行っていました。
そこで、私の信頼する療育センター長が修了の挨拶をしました。そこで印象に残った言葉があります。
みなさん、子どもを愛してあげてくださいね。好きになってください。
えー?言うは易く行うは難しだよ。正直そこまでの心の余裕がないし。でも、きっとセンター長はそのことをわかっていたのでしょうね。私も、このままじゃないけないってこともわかっていました。なにか方法はないものか…
私が試した方法
私が試してみたのが自己暗示です。といっても何も怪しい団体とかオカルトなやり方とか自己啓発系ではなく、声に出して自分に言い聞かせるだけの自己暗示とも言えないようなものです。偶然ネットで見たよくあるまとめ記事に、人間は驚くほど暗示にかかりやすいというようなものがあったので、ダメもとで自分にやってみたらどうなるの?と思ってやってみたのです。単なる遊び心みたいなものです。いいことも悪いことも言葉に出すと本当になるってよく言いますし。
とりあえず一日一回寝る前に、暴れる長男を抱きしめて「長男くん大好きだよ、長男くんかわいいね」と言い続けることにしました。そうすると不思議なもので、あんなに頭痛のタネだった長男がなんだかどんどんかわいくなってくるんです。単純ですよね(笑)
そんなある日のことです。寝る前に歯磨きをしようと、長男を手招きで呼びました。彼はいつも走り回っているし、歯磨きは嫌いなので捕まえるのも一苦労です。でも、私はクタクタに疲れていたので座ったまま手を広げて長男を呼んだのです。そのとき…
長男が笑顔で走ってきて私に抱きついたのです!!
私のことを母親と認識していなかった全然なつかなかった長男が、自分から私に笑顔で抱きついてきた!この瞬間は今でも忘れられません。おそらく、彼は前からきっと私に対する愛情はあったのかもしれません。それをどう表現していいかわからなかっただけなのかも。それに、たとえ聴いて理解する力は弱かったとしても、私が長男をかわいいと思う気持ちが伝わったのでしょうか。それに、ただ「大好きだよ」と口に出すというだけですが、障害や夫との争いや世間の目などで私の気持ちにフィルターが何重にもかけられていたことにも気づかされました。なんだ、すべてフィルターを取ってしまえばこの子はこの子じゃん。
それからというもの、夜に歯磨きをするときは、長男が走ってきて私に抱きつき、私が長男を強く抱きしめて「大好きだよ」と言うのが毎日の恒例行事となりました。なんとそれは5年経った現在でも続いています(笑)
こうして、ちぎれかかっていた親子の絆は首の皮一枚でつながったのです。長男が三歳と少しの春のことでした。
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